伊藤忠、環境対応 最も早い総合商社に

鉢村剛・最高財務責任者

伊藤忠商事がSDGs(持続可能な開発目標)への対応を加速させている。発電用の石炭開発から完全撤退するほか、総合商社初となるSDGs債を発行し、環境に配慮した素材・製品ビジネスを積極的に展開する。欧米の投資家を中心に、総合商社の環境対応への関心は高い。環境対応と企業価値の向上をどのように両立させていくのか。今後の戦略を鉢村剛・最高財務責任者(CFO)に聞いた。

鉢村剛 伊藤忠商事CFO

鉢村剛(はちむら・つよし)
1982年早稲田大学法学部卒。91年伊藤忠入社、鉄鉱石・石炭などの資源事業や企画業務を通じて豪州・米国に駐在。2011年財務部長、15年からCFO。21年4月より副社長。趣味は美術鑑賞とジョギング、毎月数回は博物館や美術館に通う。

――今期(2022年3月期)から始まる中期経営計画でSDGs 対応を強化する方針です。伊藤忠のSDGsに対する考え方を教えてください。

「伊藤忠は(石油や石炭など)重厚長大系の資産の割合は少なく、資源ビジネスは得意分野ではない。これまでは、こうした資源ビジネスが総合商社の中で優良とされてきたが、今、SDGsへの対応が求められるようになってきた。我々は資源関連の資産が少ないために、フットワークを軽くSDGsに向けた取り組みを実行できると考えている」

「事業環境について、明らかに潮目が変わったと感じたのは3~4年前だ。投資家向け広報(IR)をする中で欧州の投資家から環境関連の質問が出始めた。さらに2年ほど前から、米国の投資家からも環境対応に関する伊藤忠の立ち位置を問う質問が増えた。環境への意識の高まりは肌身で感じてきた。こうした流れの中で、社内では先行して発電用の一般炭の開発については議論してきた。今回の中計では、一般炭権益からの完全撤退を含めた脱炭素化の推進を盛り込む」

――3月末に総合商社で初めてSDGs債(期間5年、米ドル建て5億ドル、利率1.564%)を発行しました。発行に至った背景を教えてください。

「間接金融ではなく、直接金融で資金調達をしたいという思いは10年来あった。金融危機時にはコストをかけても間接金融だけでは絶対量を確保できない可能性があるほか、債券投資家は独立客観的であり、経営への評価が確認できる。ただ、総合商社は負債額が大きいことや、財務レバレッジが高いことから、(金利面で有利な)外債発行がなかなかできない。当社は2017年にムーディーズからA格を取得(Baa1格→A3格)して環境が整っていた」

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