みずほ、構造改革の副作用 ガバナンス不全で増幅

小野沢健一

金融庁は今年8回のシステム障害を起こしたみずほ銀行とみずほフィナンシャルグループ(FG)に業務改善命令を出した。「取締役会が十分に審議していない」「監査委員会が具体的な指示をしていない」――。指摘事項には企業統治(コーポーレートガバナンス)不全を糾弾する文言が並び、一時は銀行界のトップランナーとも目されたガバナンス優等生の評価は失墜した。この5年間で何が変わったのか。

|「追認機関」化した社外取締役

みずほが2014年に導入した指名委員会等設置会社はガバナンス改善に向けた最先端の仕組みだった。取締役会の中にそれぞれ過半数の社外取締役で構成する指名、報酬、監査の各委員会を置き、執行役の業務執行を監督する。みずほの場合、指名、報酬の両委員会は全員が社外取締役。監査委員会も4人のうち3人が社外だ。3つの委員会とは別に、リスク管理を取締役会に助言するリスク委員会なども設けた。

システム障害を未然防止することは難しかったろう。だがこの仕組みが機能すればガバナンス不全が指摘される事態は起きなかったはずだ。しかし、執行役だけでなく、取締役会もリスクを十分に認識していなかった。実はこの5年ほどの間に、他のメガバンクがみずほ内部に潜むシステム運営上の問題点を敏感に察知し、システム関連の態勢を見直す動きがあった。こうした危機意識を、みずほ自身がなぜ醸成できなかったのか。

金融庁による約8カ月の長期検査で明らかになったのは、チェック機能を担う取締役会が骨抜きになる姿だった。複数の関係者に障害が起きるまでの状況を聞くと、社外取締役と執行役をつなぐパイプは坂井辰史社長自身と担当役員の2人。「社外取締役は限られた経営幹部としか接触せず、情報もコントロールされていた可能性がある」(関係者)

17年度は社外取締役同士が互いに情報交換して認識を共有し、取締役会の運営のあり方などを考える「社外取締役会議」を4回開いたが、18~19年度は2回に半減。20年度は1回しか開かなかった。社長とカンパニー長ら執行幹部と社外取締役が自由討議する「オフサイトミーティング」は17年6月~18年2月にのべ17回開いたが、20年4月~21年3月はのべ9回にとどまっていた。

新型コロナウイルスの感染拡大で人との接触を極力減らす必要があり、みずほ側も負担を抑えようと配慮したかもしれない。構造改革を着実に実行し、業績を引き上げた坂井氏らへの社外の信頼も厚く、「指名委が選んだトップにできるだけ任せよう」との意識が働いたのも理解できる。

ただ、みずほが指名委等設置会社に移行した直後、社外取締役メンバーは佐藤康博会長(当時社長)らと「衝突も辞さないほど活発に議論した」(みずほ関係者)という。パイプ役となる担当役員ら複数の幹部が社外取締役と話し合い、執行側にとって都合の悪い情報も提示し、判断に生かしてもらった。

指名委等設置会社という外形は同じでも、実態は監督というより執行にお墨付きを与える「追認機関」に近づいた。メンバーも徐々に入れ替わり、人選で「業務執行に理解を示しやすい人を選んだのでは」との疑念も聞こえてくる。

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