金融育成庁とは何か 「両利き行政」の理想と現実

金融検査のプロ 佐々木清隆の目

 ポリシーウオッチは金融行政のあるべき姿を有識者に語ってもらうコラムです。金融庁は2018年7月、検査局を廃止し、「総合政策局」「企画市場局」「監督局」の3つの局に再編した。金融育成庁への転換を狙った組織再編だったが、総括審議官として局再編を指揮し、初代総合政策局長に就いた佐々木清隆氏(一橋大学大学院経営管理研究科客員教授)が「金融育成庁とは何か」を解説します。

新型コロナウイルス禍に伴い、ESGの要素、中でも脱炭素などの「E(環境)」と健康、安心、人権などの人に着目した「S(社会)」の重要性が高くなっている。それにともない、貢献する金融の役割も「サステナブルファイナンス」として注目を集め、議論が急速に進んでいる。サステナブルファイナンスは金融機関、企業、投資家など幅広い関係者に様々な取り組みを求めているが、金融行政にも大きな変革を迫っている。

「サステナビリティ議論」、3つの注目点

サステナビリティはコロナ禍以前から国連SDGsやESGに関して金融庁も議論してきたが、昨年、菅政権(当時)が脱炭素の方針を打ち出したこと、またコロナ禍を通じて人の要素の重要性が高くなったことを背景に議論が急加速した。21年6月には金融庁がサステナブルファイナンス有識者会議報告書を公表したが、筆者はその注目点を以下の通り整理している。

①サステナブルファイナンスは、持続可能な経済社会システムの構築の上で重要な要素であるESGの分野に民間資金を動員するものであり、市場メカニズムに基づく金融機能(資本市場を通じた直接金融、銀行融資を通じた間接金融その他)を発揮するものである。そのためには金融機関や金融資本市場の主要プレーヤー(機関投資家、個人投資家、アセット・マネジャー・オーナー、証券取引所、ESG評価・データ提供機関等)が期待される役割を適切に果たすことが必要だ。

②民間資金を動員するためには、ESGに取り組む上場企業など各当事者がその取り組みやサステナビリティに関する情報を適切に開示し、投資家、金融機関などの投融資提供者との間で建設的な対話を行うことが重要だ。

③サステナブルファイナンスにおける金融機関などのプレーヤーの役割は非常に大きい。サステナビリティに関する収益機会をビジネス戦略に織り込み、リスクの視点をリスク管理に埋め込むことが適当だ。投融資先のESGへの取り組みを支援しサステナブルな経済社会の構築に貢献するとともに、金融機関として適切なリスク管理態勢を構築しなければならない。

以上は本報告書の提言を整理した論点だ。金融機能のpurpose(存在意義)・mission(使命)が持続可能な経済社会システムの構築へどの程度貢献できるか。担い手が金融庁の規制監督する金融機関に限らずサステナブルファイナンスのインベストメントチェーンの当事者全体であること。こう明示した報告書は以下の点で金融行政に大きな示唆を与えている。

「金融『機能』育成庁」へ転換を

金融庁の業務は①免許・登録を受けた金融機関などの監督(業者行政)②金融資本市場に関する監視など執行(市場行政)③その他民間の金融機能の発揮に関する諸施策の企画立案――の3つに大別できる。

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