「仕組み債」がドル箱商品に 個人もてあそぶ業者

仕組み債の闇(前編) 経済ジャーナリスト・浪川攻

 ポリシーウオッチは金融行政に精通する有識者が政策を論じるコラムです。今回は経済ジャーナリストの浪川攻さんに金融庁が切り込もうとしている「仕組み債」を論じてもらいました。
 財テクに走った地方自治体や大学、農林系統金融機関など機関投資家が巨額の損失を抱え、訴訟に発展するケースも少なくありません。そういうときに必ずと言っていいほど登場する商品です。
 プロ向け商品がいつのまにか個人マーケットに広がり、販売業者のドル箱になっていました。米リーマン・ショックのような相場急変時の損失リスクも抱えています。金融庁が警鐘を鳴らし始めた「仕組み債の闇」を2回に分けてリポートしてくれました。

ぬか喜びの「手数料ゼロ」

郊外に住む主婦、Aさんは老後資金のために保有していた1000万円の個人向け国債が満期を迎えた。そこで、最寄りの大手証券の店舗を訪れた。

「老後資金のための投資だけど、何か良い商品はありませんか」

その相談に対して、間髪入れずに証券会社の担当者が「これはいかがですか」とテーブルに置いたのはインデックス連動型仕組み債のパンフレットだった。

「国債よりも金利は高いし、大企業が発行した社債だから潰れるリスクはほとんどありません」

そう説明されてパンフレットをみると、5年物で利率は年1.6%とある。確かに、国債よりも金利は高い。Aさんが興味を持ったと見極めるや、担当者は「デリバティブ」「ノックイン」「ノックアウト」等々、難しい用語でいろいろと商品性を説明したが、Aさんにはその内容はよく分からなかった。でも、金利の高さは魅力的だったし、購入の際の手数料もないと言う。

購入して3カ月後、証券会社の担当者からの電話が鳴った。「ノックアウトで早期償還となりました。利息と元本が戻ります」と言う。よく意味が分からなかったが、確かに、口座には投資元本と利息が入金された。利息は年利1.6%分の4分の1だが、ちょっとした小遣い銭になった。Aさんはうれしくなって、担当者に勧められるまま、戻ってきた元本金額で次の仕組み債に再投資した。

「投信などと違って手数料はないし、すぐに早期償還になって利息が得られる。買い物に行くのが楽しみになった」

Aさんは喜んでいる。

これはフィクションではない。実際の話である。おそらく、この間、全国でこんな出来事が起きている。

だが、Aさんのような人は間違っている。「手数料ゼロ」ではなく、それが見えない仕組みになっているだけだからだ。

金融庁、「見えない手数料」問題視

仕組み債は、債券にオプションを組み合わせて、株価指数や個別株式に投資価値(参照価格)が連動するように組成された投資商品である。株価指数連動型をインデックス連動型債券と、個別株式連動型はEB(Exchangeable Bond)債券と呼ぶ。

この仕組み債の「見えない手数料」に切り込もうとしているのが金融庁である。昨年12月6日、金融庁の金融審議会・市場制度ワーキング・グループに金融庁が提出した資料にはこう記している。

「商品性にかかわる情報であるコストは開示されていない(顧客にはコストを内包した販売価格のみが提供される)」

たとえば、冒頭のAさんが購入した商品の目論見書はA4サイズで45ページに及んで、びっしりと商品説明が記されているが、「手数料など諸費用について」には次のような短い表記があるだけだ。

「本債券を募集・売り出し等により、または当社との相対取引により売買する場合には、その対価(購入対価、売却対価)のみを受け払いいただきます」

手数料ゼロとは明記していないものの、素人には「手数料ゼロ」、つまりコストゼロと読める。

「リテール部門赤字」に

一方、この仕組み債こそ、いま、販売する証券会社などにとってはドル箱商品である。その実情について、某銀行系証券の幹部はこう漏らしている。

「仕組み債から得られる収益はリテール部門全体の収益の2~3割になる局面もある。仕組み債の収益がないと部門赤字になっておかしくない」

つまり、顧客にとっては手数料のようなコストは見えないだけということになる。そこで証券会社にとっての「ドル箱」という構造を解剖しよう。

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