三菱UFJの「巨額自社株買い」、警戒解けぬ金融庁

金融エディター 玉木淳

三菱UFJフィナンシャル・グループが自社株買いを再開した。新型コロナウイルス禍で7年ぶりにゼロだった2020年から反転し、22年5月には過去最大の3000億円計画を発表した。中期経営計画で掲げた自己資本利益率(ROE)目標を必達するための秘策は3メガで唯一、アナリストが「満点」を出す株主還元策だったが、舞台裏では社外流出を警戒する金融庁との間で神経戦が起きていた。

プレスリリースの「痕跡」

三菱UFJが5月16日に発表した自社株買いのプレスリリース文に載っていた見慣れぬ一文に気づいた人はそう多くないはずだ。

三菱UFJフィナンシャル・グループが5月16日に発表した自社株買いのプレスリリース文

少し長いが「(注1)」に書かれた文章を引用する。

「(注1)本取得に関しては、速やかに買付を発注し、上記事項に基づき完了することを基本とします。但し、昨今の地政学リスクを中心とする外部環境の不確実性に鑑み、環境が急変した場合には、その時点での経営環境の見通し等を総合的に勘案し、取得の継続につき改めて検討する可能性があります」

これまでの発表文に載ったことがない「注記」こそ、金融庁との神経戦でできた痕跡だ。「取得の継続につき改めて検討」という言葉は万が一の場合、中断することを示唆している。計画を発表しているのに計画の中断を示唆するちぐはぐさこそ、綱引きが起きていたことを暗に示している。

三菱UFJが発表した自社株買い計画は発行済み株式総数に占める割合が4.7%に上る過去最大だ。2年ぶりに再開した21年11月の計画は上限1500億円で同比率は2.33%。年間でも15~17年の3年連続した2000億円計画が過去最大で、その1.5倍に上る巨額の自社株買い。それを半期分として発表したポジティブサプライズにアナリストは拍手喝采を送った。

こだわりの「10%」

自社株買いは手っ取り早い株主還元策だ。発行済み株式数はその分だけ減るので1株当たりの利益は上がり、ROEやPER(株価収益率)と言った指数は改善する。しかし、自己資本比率は低下する。やみくもに自社株買いを繰り返せば、その分だけ手元資金を削っていくことになる。

(出典)2021年3月期決算の投資家説明会資料「資本運営の目線」から引用

三菱UFJは株主還元の目安を公表している。「CET1(普通株などの中核的自己資本)比率10%」だ。それを超えた場合、全額株主に還元すると約束している。やみくもに実施しているわけではなく、ここが三菱UFJのこだわりポイントだ。

初めての「踊り場」

CET1比率10%から逆算した株主還元の理論値は5000億円程度。毎期3000億円を超える配当を出していることを考えれば、自社株買いは差額の1500~2000億円で済むはずだ。にもかかわらず、破格の株主還元を俎上(そじょう)に挙げているのは成長戦略に陰りが見えているからだ。M&A(合併・買収)や戦略的資本提携を通じて成長してきた三菱UFJが初めて訪れた踊り場だ。

「これをどのように成長投資と株主還元に振り分けるかが重要だ」。5月19日の投資家向け説明会で、三菱UFJはさらなる自社株買いに含みを持たせた。「これ」とは「MUFGユニオン・バンク(MUB)の売却」を指している。

三菱UFJは21年9月にMUB株式を米地銀最大手USバンコープに売却すると発表した。売却代金は三菱UFJの資本になる。「CET1比率への影響は+35bp程度」。0.35%分の自己資本は比率を計算する分母の条件を変えなければ4000億円程度に上る。

新たな投資先が見つからなければ、CET1比率10%を超える余裕自己資本は合計9000億円程度に上る。配当を除けば、理論的には年間で合計6000億円程度の自社株買いが必要になる計算だ。今の3000億円と別にもう一回、3000億円規模の計画を実施する可能性も十分ある。

その根拠は現時点で有力な投資先が見つかっていないからだ。

NIKKEI Financialに登録すると、全文をお読みいただけます